決勝トーナメント1回戦 ブラジル対チリ 地元ブラジル、チリのプレッシングサッカーに大苦戦も辛くもPK戦で勝ち残る!

ブラジルから帰国して早1週間が過ぎた。

しかしながら私の時差ボケはなかなか解消されない。そういった意味でもつらい1週間だったのだが、この日本に帰国してからの1週間は、1次リーグの最終戦が行われ、決勝トーナメント進出の16か国が決まった。

ブラジルは、決して横綱相撲ではなかったが、2勝1分けのグループリーグ1位で決勝トーナメント進出を決めていた。

しかし、今回のW杯は、スペイン、イタリア、イングランドポルトガルといったヨーロッパの強豪国が続々と1次リーグで姿を消していった。

また残念なことは、日本をはじめとしたアジアの4か国が1勝もできず1次リーグを突破できなかったことだ。この成績を目の当たりにすれば、次回からの出場枠にも影響が出てくるだろう。そうなると、今日本は当たり前のように出場しているが、それも簡単にはいかなくなるだろう。

そして、昨晩というか今朝の早朝から決勝トーナメントが始まった。

決勝トーナメントは一発勝負である。これはどんな強豪国にとってもまったく楽ではない。

現在、クラブチームの大会ではヨーロッパのチャンピオンズリーグでも南米のリベルタドーレス杯も決勝トーナメントはホームアンドアウェイの2回の勝負で行っている。しかしながら、世界最高の大会、ナショナルチームのW杯では1回きりの一発勝負である。その1回の試合をものにしていかなければならない。だから余計に何が起こるかわからない。

そんな決勝トーナメントだが、初戦は1次リーグと同様に地元ブラジルだった。相手はチリ。私はチリの1次リーグでの戦いを見ていないのだが、スペインにも2-0で勝っており、かなりくせ者といった印象が強い。

さて、この日のブラジル、先発はレギュラーメンバーからボランチパウリーニョフェルナンジーニョに代わっていた。

レギュラーナンバーの5番をもらっているフェルナンジーニョは、前試合のカメルーン戦で途中出場し、ゴールも決めるなかなかの活躍をしていたので、この変更には納得だ。

さて試合が始まり、チリのあまりのプレッシャーの激しさに圧倒された。

ブラジルの選手がボールを持つと3人ぐらいがボールを奪いに来る。まるで蟻が甘い餌にたかるような感じである。それがものすごいスピードで来るので、ブラジル人選手は自分たちの間合い、ペースでサッカーをさせてもらえないでいた。

そんな中でも、ブラジルも何とかゲームを作り、ネイマールのCKから相手DFのオウンゴール気味だったが、DFダヴィド・ルイスのゴールで先制点を奪うことができた。これは、ブラジルにとってとても大きな1点になると思われた。

しかし、その後、ブラジルのミスからチリのエース、アレクシス・サンチェスに決められてしまった。1-1だ。

その後、前半は一進一退の勝負だった。

しかし、後半に入り、ブラジルはまったくボールを奪えなくなった。前半よりもチリのプレッシングサッカーが冴えだした。ルーズボールは拾えない、ボールはキープできない。まるで、2011年のクラブW杯の決勝、サントス対バルセロナ戦を見ているようだった。あのときのサントスは、激しいプレッシングに何もすることができなかった。そこまでひどくはないが、これはかなりまずいと思いながら見ていた。

前試合、1次リーグ最終戦の対ガーナ戦でも、ブラジルはかなり厳しい時間帯があったが、ネイマールの個人技でゴールを奪い、流れを引き寄せることができた。しかし、この日のネイマールは前半に受けたファウルが効いているのか、精彩を欠いていた。なかなか個人技で打開できる感じがしない。他の選手もうまく動けないでいた。唯一動けていたのはフッキだ。フッキは本当に元気だった。相当に縦へ突破したりしていた。しかしゴールだけは奪えない。

後半の終盤に入り、チリに疲れがみえはじめたせいか、少しずつブラジルにチャンスが作れるようになってきた。これはいけるかもしれない、と思ったが、ゴールは遠かった。

90分間で決着がつかず、延長戦へ。延長戦では、ブラジルのほうが押していた感じだったが、結局ゴールは奪えず、PK戦へ突入した。

この試合中、ブラジルはここまでか、と何度となく思ったりもしたが、PK戦に入ることになり、いよいよブラジルの敗退も覚悟した。

しかし、ブラジルがこんなに早く終わってしまったら、残念でならないと思った。

PK戦になったら、運に左右される部分も多いので、もう仕方がない。120分間で勝負をつけられなかったのが悪いと思うしかない。

さて、PK戦はブラジルの先攻で始まった。ブラジルが先攻になりよかったな、と思った。最初はダヴィド・ルイスだった。きちんと決めてくれた。これは大きかった。私も手を叩いて喜んだ。

そして、相手の最初のキッカーに対しGKジュリオ・セーザーが止めてくれた。これには、大声を出してしまった。

その後、2番目のウィリアンは外してしまったが、またもジュリオ・セーザーが止めてくれた。

3番目のマルセロは相手GKの手を弾きながらゴールを決め、チリも決め、この時点で2-1。

4番目のフッキは、GKに止められ、チリには決められ、2-2になってしまった。

そして5番目、通常通りネイマールが出てきた。ネイマールは延長戦終了間際に足がつっていたので蹴らないかとも思ったが、出てきたのだ。

ネイマールのPKは何度も見てきている。2010年、サントスで駆け出しの頃はそれこそ本当によく失敗していた。パラジーニャといって、蹴る直前に動きを止めてGKの動きを見てから蹴ったりしたりしていた。ネイマールのパラジーニャが原因で、FIFAからパラジーニャが禁止される事態にも発展したりしていた。

そんなネイマールだが、2011年を境に必ずと言っていいほどPKを決めるようになっていた。

だから、この最高にプレッシャーがかかる場面でも絶対に決めると思っていた。

さすがエースだ。さすがネイマールだ。その通りにきちんと決めてくれた。

そして、チリはゴールポストに弾かれ、ブラジルの勝利が決まったのだった。

とりあえず、ブラジルの戦いがまだ続いてくれることになり、本当によかったと思った。

ネイマールは泣いていた。

それはそうだろう。こんなに早く終わってしまうわけにはいかないだろう。

それにしても、チリの戦いぶりは素晴らしかった。これだけ激しいプレッシングサッカーを終盤まで続けることができ、ブラジルを相当に苦しめた。この戦いぶりにはあっぱれだ。

この試合を見て、チリの戦い方は日本代表にも参考になるのではないか、と思わされた。

明日のブラジルの新聞の一面が目に浮かぶ。

”Puxa Brasil! Parabens Chile, muito bom jogo!”(どうしたブラジル!チリ、素晴らしい戦い、おめでとう!)といった感じだろうか。

それにしても、地元ブラジルにとっても、私個人にとっても、楽しみが続いてくれることになり本当によかったと思った。

しかし、次も大変な戦いになるだろう。次の相手はウルグアイを破ったコロンビアである。今回のコロンビアはとても強い。10番のハメス・ロドリゲスはとんでもない選手だ。ネイマールを上回るほどのクラッキに思える。

1回死にかけたブラジルだが、戦いを進めることが許されたのだ。

そんなブラジルには、もう一度、フィジカル、メンタル両面をリフレッシュさせて、素晴らしい戦いを見せてほしい。そして勝ち進んでほしいと思うのである。