決勝バイエルン対チェルシー チェルシー、死闘の末に4年越しの雪辱を果たす!

楽しみにしていた、チャンピオンズリーグの決勝が5月19日土曜日、こちらの時間で午後3時45分から行われた。

TV中継は、スポーツ専門チャンネルESPNで試合開始の2時間ほど前から行われていた。試合会場のアリアンツ・アリーナの周りや、選手たちが会場入りする様子などが映されていた。アリアンツ・アリーナの周りは、緑豊かな公園になっており、チケットを求める人々がたくさんいた。なぜか、この様子は、とても平和で牧歌的に見えた。それは、スタジアムの周りの環境によることが多いだろう。スタジアムの周りの雰囲気が南米のそれとは大分異なって見えたからだ。チャンピオンズリーグの決勝とリベルタドーレスの決勝では趣が少し異なるかもしれないが、私も昨年のリベルタドーレスの決勝でそのように試みたうちの一人である。残念ながら、チケットを手に入れることはできなかったが、現場でしか味わえない感覚というものはある。結局そのときは、スタジアム近くのBarで溢れ返るぐらいのサンチスタたちと一緒にTV観戦したのだが、スタジアムの中に負けないぐらいの熱気があり、非常に楽しく、サントス優勝の瞬間を味わったものだ。それは、非常にかけがえのない経験だった。

さて、そんな映像を見ながら試合開始を待った。去年のロンドンで行われた決勝でも思ったが、チャンピオンズリーグの決勝は、まるでW杯の決勝のように神聖な雰囲気がある。アトラクションのようなものも行われる。今回は、チャンピオンズリーグのテーマ曲のニューバージョンをドイツ人のオペラ歌手が、伴奏のバイオリニストを従えて、歌い上げていた。とてもかっこよく思えた。リベルタドーレスの決勝とは違いすぎる。

そして、午後3時45分にキックオフされた。

試合は、バイエルンが攻めチェルシーが守る、予想通りの展開だった。

チェルシーにとっては、準決勝の対バルサ戦よりは前線で試合ができていたが、全員でゴールを死守するという姿勢はまったく同じだった。

何本ものシュートがチェルシーの守るゴールに襲い掛かるが、それをチェルシーの選手全員に魂が乗り移っているかのように、悉く跳ね返すのだ。まさに死守、死んでも守るという表現が相応しいだろう。見ていても、魂を感じるので、ゴールを入れられる感じはしなく、その魂溢れるプレーには感動すらさせられるのだ。

そんな状況がずっと続いていたが、後半38分についにゴールを割られてしまった。ミュラーの叩きつけるようなヘディングは、さすがのチェフでも止められなかった。

この時間での失点は、チェルシーにとってかなり厳しいものに思えた。

しかし、この日のチェルシーは、すべてにおいて神懸っていた。

後半43分に、チェルシーはこの日初めてのCKを得た。

このとき、私は一緒にTV観戦していた長男に、「ここでドログバが決めるよ。」と言った。これは、予感が半分と希望が半分といったところだった。ドログバには、特に感じ入る何かがあったので何かやってくれる気がした。またそんなドログバにゴールを決めてほしかったので、このような言葉が自然と出たのだろう。チェルシーを応援していた長男は、「見ないで後ろを向いていよう」と言ってそのようにした。

そして、フアン・マタの蹴ったCKから、見事にゴールが決まったのだ。

私は、「ゴーーール!」と叫んでいた。なんと、ドログバが決めたのだ。

私は、長男と抱き合って喜んだ。

長男は、ベランダの窓から、「ゴール!チェルシー!」と叫んでいた。

この日は、サッカーのある日はいつも騒がしい隣のBarから、歓声は上がってこなかった。

ドログバにはさすがとしか言いようがない。

決めなければならないところで、きちんと決めたのだ。

守備固めに入り勝ちを確信していたバイエルンにとっては、悪夢としかいいようがないだろう。

そんなバイエルンにとっての悪夢がこの先にまだ続くとはこの時点で誰が予想しただろうか?

1-1で90分が終了し、延長戦に入ることになった。

そんな延長前半3分に、バイエルンにPKが与えられたのだ。

キッカーはロッベンだった。私は、誰がバイエルンのPKにおけるキッカーなのかは知らなかったが、マリオ・ゴメスが蹴るのかなぁと思ったので、ちょっと意外な感じもした。

このときは、外す予感などは特にしなかった。ただ、ここで取られても、まだ時間があるからまた取り返せばいいと思っていた。チェフ頼むぞ、と思いながら見ていたら、なんとチェフが見事に止めたのだ。

なんということなのだろうか?私は、チェルシーを応援していたので、またも長男を抱き上げて喜んだが、ロッベンバイエルンファンのことを思うと気の毒この上ない。

その後は、なんとなく、ドログバのアシストでトーレスが決めるかな、とも思ったりしたが、そうはうまくいかず、結局そのまま30分間の延長は終了し、優勝の行方はPK戦に委ねられることになった。

PK戦に対しては、いろんな意見はあると思うが、私は運のようなものだと思っている。当然、分析は必要で、分析によって勝利する確率は変わると思うが、選手たちにそれを押し付けることは酷だろう。だから、PK戦に入ったら、もうある程度仕方がないと思ってしまうのだ。

しかし、優勝と準優勝では天地ほどの違いがある。私としては、チェルシーに勝ってほしかった。その理由としては、私がTV観戦した準決勝第2戦からその魂溢れる守備ぶりに感動させられたことが大きな要因だと思うが、4年前に同じくPK戦までもつれた上でタイトルを獲得できなかった雪辱をぜひ晴らしてほしいと思っていたからだ。

PK戦ほど、サッカー選手にとって残酷なことはない。

バイエルンの一人目ラームは、チェフが反応し、手にぶつけたが、ゴールを決めた。

チェルシーの一人目フアン・マタは、ノイアーに止められてしまった。これは、かなり痛いなと思った。

その後は、皆順調に決めていった。

チェルシー二人目のダヴィド・ルイスは、ホベルト・カルロス並にすごい助走をとって思いっきり打ち、決めてくれた。

バイエルンの3人目にノイアーが出てきたときは、意外に思ったのと同時に、これは外すんじゃないかな、と思ったが、見事に決められた。

しかし、チェフはここまですべて方向を読んでいるのだ。止めることはできていないがこれはすごいことだと思っていた。

そして、バイエルンの4人目オリッチの放った球を、チェフは右手一本で弾き返したのだ。

ここで、すべてで読みの当たっていたチェフに報いが与えられたのだ。これでタイになった。

チェルシー3人目のランパードも4人目のアシュリー・コールも速い球で決めてくれた。

そして、バイエルンの5人目は、前試合、レアルとの準決勝で勝利を決めた最後のPKのシーンが印象深いシュバインシュタイガーだ。これが、チェフの指先をかすめたボールはゴールポストに当り、無情にもゴールの外に出てきたのだ。この瞬間、シュバインシュタイガーはユニフォームで顔を隠してしまった。

そして、チェルシーの5人目はドログバだ。決めてくれ、と願いながら見ていた。それをドログバは、しっかりと決めてくれたのだ。

チェルシーが優勝したのだ。

非常にドラマチックな結末だった。

最後にドログバで決まった、というのも、この大会を象徴している感じがした。

ドログバには感動させられた。

その立ち振る舞いすべてがかっこいいと思った。

グラウンドを走り回り、喜びを爆発させていた。その一方で、バイエルンの選手たちに言葉をかけていた。こんなこと、普通の人にはできないだろう。

この勝負については、いろんな意見があるだろう。

感覚は日々動いているので、何とも言えない。しかし、2年前の決勝で私が感じたことと、この日私が感じたことは相矛盾するようにも思う。2年前の決勝では、圧倒的に攻め素晴らしい攻撃だと思ったバイエルンが、カウンター2発を決めたインテルに破れた。このとき、私は何と理不尽なことがあるのか、と思った。

そして、今年の決勝は、圧倒的に攻めたバイエルンが、チーム一丸となってゴールを死守したチェルシーにPK戦の末に敗れたのだ。しかし、このバイエルンの敗戦、すなわちチェルシーの勝利を、今の私は理不尽とは思わない。

この違いは何なのだろうか?

それは、月日が経ち、サッカーを見る目が変わったこともあるだろう。しかし、最大の理由は、2年前のインテルには感動させられなかったが、今年のチェルシーには感動させられたことだろう。それだけ、今年のチェルシーには心を奪われたのだ。

一方で、残念ながら敗者となってしまったバイエルンについてだが、ロッベン、オリッチ、そしてシュバインシュタイガーに対しては、気の毒でならない。そして、バイエルンのファンもこれほどの無念さはないぐらいの意気消沈ぶりだろう。そう簡単には立ち直れないぐらいのショックであることは、熱狂的なファンのチームを持つ私には容易に理解できる。

しかし、これがサッカーなのだ。チェルシーが雪辱を果たせたように、この経験を次に生かしてほしいと思うのである。

さて、これで、チェルシーがヨーロッパ代表として、日本で行われるクラブW杯に出場することになった。残念ながら、本日ドログバの退団が発表されたので、日本でドログバのプレーを見ることはできなくなった。しかし、素晴らしい選手はほかにもたくさんいる。日本でぜひ、素晴らしい試合、感動を与えるプレーを見たいと思うのである。