前半戦を振り返る 柔道編

8月12日(金)(日本時間13日(土))に行われた開会式で開幕したリオデジャネイロオリンピックも早いもので1週間以上が経過し、既に後半戦に入っている。

日本は、水泳、柔道、体操などの主要競技でスタートダッシュに成功し、いまだかつてないほどのメダルラッシュに沸いている。

そんな前半戦を競技ごとに振り返ってみたい。

まずは、日本のお家芸、柔道についてである。

柔道の初日、最軽量級の戦いについては先日書いたが、柔道はまさに紙一重の競技だと改めて感じさせられた。

そんな紙一重の競技で、男子は全7階級にてメダルを獲得、女子は全7階級中5階級でメダルを獲得という素晴らしい成績を残した。

競技の性質上、1回戦で負けてもなんら不思議ではないが、この成績は本当に立派だと思う。

しかし、同じ色のメダルを取っても、選手の境遇、経歴などによって、かなり状況は異なるように思う。

1日目の男子60kg級の高藤、女子48kg級の近藤の銅メダルに続き、2日目、男子66kg級の海老沼匡、女子52kg級の中村美里はともに銅メダルを獲得した。

海老沼は、2012年ロンドン大会に続き、2回目の代表。ロンドン五輪では、準決勝での誤審騒動が記憶に新しい。当時の柔道は、技での勝負が決まらない場合、3人の審判による判定で勝敗を決めていたが、ビデオ判定にまで持ち込まれ、判定の結果が覆るということがあった。この準々決勝では勝ち進んだ海老沼だったが、銅メダルに終わっていた。

海老沼は世界選手権では3連覇しているが、五輪での借りを返すべく今大会に臨んでいたが、残念ながら今回も銅メダルに終わってしまった。本人にとっては相当に無念だったと思う。

一方の中村も似たような境遇だ。世界選手権は3度制しているが、五輪では2004年北京大会で銅メダル、2008年ロンドン大会では初戦敗退で、今大会は何としても金がほしかったはずだ。笑わない柔道家として有名なようで、ぜひ金メダルを取って笑顔を見せてほしかったが、準決勝で世界ランキング1位の選手に惜しくも破れ、北京大会と同様に銅メダルを獲得した。

3日目は、男子73kg級の大野将平が日本柔道念願の金メダル、そしてロンドン大会で金メダルを取り野獣としてブレイクした女子57kg級の松本薫が銅メダルを獲得した。

この日のメダル決定の瞬間は、いずれもTVで見ていたが、大野は準決勝、決勝ともに一本で勝ち、勝っても多くを語らず、侍というか日本男児のたたずまいを感じさせられた。これぞ正当派の日本の柔道選手であると思わされた。

そして、野獣と呼ばれている松本だが、ロンドン大会ほどには野性味は感じられず、穏やかな感じを受けた。準決勝で敗れてしまったが、3位決定戦ではきれいな有効が決まり、銅メダルを獲得した。

4日目は、男子81kg級の永瀬貴規が銅メダル、そして女子63kg級の田代未来は準決勝で敗退し続く3位決定戦でも破れ今大会日本柔道では初めてのメダルなし、という結果になった。

田代は、五輪2連覇の谷本歩実がコーチを務めるコマツに所属しており、谷本によく似た選手のようなので、特に頑張ってほしかったが、残念な結果になってしまった。しかし、この結果を誰も責めはしないだろう。責められる必要はまったくないと思っている。

本人が一番悔しいことだろう。まだ22歳と若いので、これからリベンジを果たすべく頑張ってほしいと思う。

5日目は、男子90kg級のベイカー茉秋、女子70kg級の田知本遥ともに金メダルを取ってくれた。

この2つの金メダル獲得の瞬間を見て、本当によかったと思った。特に、田知本はお姉さんも柔道選手でリオ五輪を目指していたが選考されず、妹のフォローアップに徹したとのことで、姉妹2人で喜ぶ姿には感動させられた。

6日目は、男子100kg級の羽賀龍之介が銅メダル、そして女子78kg級の梅木真美は残念ながら初戦で敗退した。柔道というあやうい競技では、初戦敗退も十分に考えられるので、本人にとっては非常に残酷な結果だが、十分にありえる結果だと思った。古賀稔彦が監督を務める環太平洋大学所属の21歳。まだ若いので、これからも頑張ってほしいと思う。

そして、7日目の最終日、この日の戦いがもっとも印象深いといっても過言ではなかった。

男子100kg超級の原沢久喜が銀メダル、女子78kg超級の山部香苗が銅メダルを獲得したのだが、男子100kg超級には、この階級で世界選手権7連覇中で、ロンドン五輪の金メダリストである絶対的な王者、テディ・リネールが君臨していた。

私は、前回のロンドン五輪でこの階級は見ていないようで、この人の柔道を見たことがなかったが、非常に興味を持っていた。

今大会の準決勝ではじめて見ることができたが、この試合、あまり攻め込んでいる感じではなく、優勢勝ちを収めた。

そして、日本の原沢が決勝まで勝ち上がり、原沢にとって満を持して、絶対王者のリネールとの決勝戦に臨むことになった。

この対戦が決まり、なぜか私はとても楽しみな気分になっていた。原沢にとって失うものはないはずだ。どんな戦いが繰り広げられるのか楽しみだった。

そんな決勝戦は、ある意味、予想通りの展開だったが、非常に残念なものだった。

まず、開始早々に、原沢に警告が2度も立て続けに入ってしまった。これで、何もしなくても勝つことができるリネールはまったく攻めない姿勢を貫く。必死に組もうとする原沢を押さえ、柔道をしようとしないのだ。こんなリネールに対し、不思議なことに審判は一切警告を出さない。

会場からは、リネールに対して大ブーイングが起こっていた。

以前の私だったら、この試合を見て、怒りで爆発していただろう。

しかし、今の私は、激怒はしなかった。しかし、残念だな、と思った。

ブラジルで柔道は盛んだ。幼稚園などでの課外活動でも柔道や空手は一般的に行われている。

だから、ブラジル人の観客もそれなりに目は肥えている。

オリンピックの決勝という最高の舞台、それももっとも迫力がある最重量級だ。最高の戦いを見たいというのが、皆の共通認識だろう。

柔道という競技の理不尽さを感じたのは、2008年の北京五輪だった。

このときの谷亮子の試合を見て、柔道の本来の戦いに入る前に、まずは、襟の取り合いから始めなければならなく、また、すべてにおいてポイントで管理されてしまうことに、非常に違和感を覚えたものだ。

それまで、私が知っていた柔道は、山下康裕や古賀稔彦といった一本で勝負するものだったから、技が決まらず、相手の警告だけで逃げ回る柔道を見て、怒りに近いものを感じさせられたのだった。

当時は、日本の目指す武道としての柔道が、世界の主流となっている競技JUDOとまったく異なるベクトル軸で動いている気がして、日本の柔道界も戸惑っている感じがした。

そんな背景があったため、今回の原沢とリネールの決勝戦について驚きはしなかったが、当時感じたことがよみがえってきたのだ。

しかし、この戦いを見て、世界中に原沢の存在を見せつけたことだろう。何しろ、世界王者のリネールが原沢のことを怖がって逃げたようなものだから。

今回が、原沢とリネールは初めての対戦だったとのことだが、これからの原沢は楽しみだと思った。

ぜひこの悔しさを晴らしてほしいものである。

最後に、地元ブラジルの選手についても言及したい。

男子100kg超級のラファエル・シウヴァが銅、女子57kg級のラファエラ・シウヴァが金、そして女子78kg級のマイラ・アギアウが銅という結果になった。

特に、金を取ったラファエラ・シウヴァは、松本薫を彷彿させるような野性味あふれる雰囲気を醸し出していた。

前回金メダルの女子48kg級のサラ・メネーゼスは残念ながら準々決勝で敗退していたが、

ブラジルでも柔道は人気スポーツなので、複数のメダルが取れてよかったと思った。

今大会の日本柔道はすばらしい成績だった。

次は地元開催である、東京五輪である。

柔道発祥の地日本で、素晴らしい戦いを見せてほしいと思う。